命の遡上

f0050534_19275172.jpg







f0050534_19274437.jpg









f0050534_19273835.jpg














f0050534_19272907.jpg





f0050534_19272252.jpg











f0050534_19271307.jpg
NikonD800E  Nikkor70~200mm




 

昨年2013年10月、僕は生まれて初めて鮭の大群の遡上というのを目にした。それは悲しいまでの命のほとばしりと、残酷かつ虚しい自然の掟だった。北海道・網走・東藻琴の川には1メートル、1センチ、1ミリでも川上の産卵地へ遡上しようとする鮭と、道半ばで命果てた鮭、あるいは使命を果たして川上より、屍となり下ってきた亡骸が累々と横たわっている。そしてその仲間の屍をさらに乗り越え、水の流れに逆らい、多くの鮭たちがさらに力を振り絞るのを見た

 

 オーストラリア・タスマニアの森。トレッキングしていると生まれたての赤ちゃんポッサムを背中にのせたお母さんが夕方、餌を探していた。そしてお母さんが立ち止った、わずか1~2秒の間、赤ちゃんがお母さんの背中から降りた瞬間、突然黒い塊が赤ちゃんをさらっていった。森中に響き渡るお母さんポッサムの悲痛な叫び。タスマニアデビルがポッサムの赤ちゃんを捕食した瞬間だった。僕はあの光景と叫び声を一生忘れない。

 

大自然は厳しい、適者生存、弱肉強食である。よく僕の写真展でお客様から「やはり自然は癒されるよね」という言葉をいただく。確かに車や電車で来て窓から見て帰るだけの自然は癒されるかもしれない。でもそこに暮らし根付き仕事をするとき、これほどまでの残酷かつ過激なものはない。100%の競争原理の世界。特にオーストラリアの内陸、シベリア、まだいったことがないアフリカや南米の自然は人類の生存を認めないぐらいのパワーがある。そしてそこに暮らす動物たちも、見た目はかわいいが実は大変な生存競争の中で生きている。野生動物を見てかわいいと思うのはそのごく一部しか見ていないからだ。常に個の生存をかけている。

 

鮭の遡上はまさに、その個の生存、種の生存を兼ねている。以前のゆとり教育盛んな時、ある企業が主催している中高生向けアウトドア体験学習を企業広報用に撮影に行ったことがある。案内しているのは筋金入りのアウトドアのインストラクター。森の中で彼が中学生たちに「みんな、世の中ゆとりと競争がなければ幸せと思っているけど大きな間違いだよ。なぜならみなさんは競争原理の結果なのだから」というと、全員が「???」「皆さんはお父さんから出た何億という精子の中で競争して最後にお母さんの卵子に真っ先に行きついたたった1つの精子の結果なのだから、まさに生存競争の結晶なんだよ」というと一同シーンとしていた。そうまさに彼が言うように本当の自然は癒しでも何でもない、常に生存競争。オーストラリアでも、シベリアでも日本でも本当の自然は、心に隙間ができた生き物をあっという間に淘汰してくれる。死に物狂いで生き残るものしか残してくれない。僕はその広報用の撮影をした学校で、機会があり講演会をすることになった。タイトルは「プロフェッショナル」。進学校だったので最終的に社会に出てどうするかということお話しした。受験校進学校だったので、生徒さんからの質問も、将来に備えての学校の学力や試験の質問が多かった。中でも「相原さんは海外で仕事をしていますが英語の成績は中高生時代どうでしたか?TOEICは何点ぐらいでしたか?」という質問をもらった。僕の答えは「中高の時は英語はだめでしたいつも5段階で2~3でした。もちろん大学でも。でも学校で教える英語ははさみで紙をまっすぐ切る練習みたいなものです。現実で大事なことははさみで紙をまっすぐ切るよりも、はさみで紙を切って何を創るかです。社会に出るとたくさん大変なことがあります。理屈では割り切れないこと、理不尽なこともたくさんあります。みなさんはこれから社会という大海原に船出していきます。そこはみんなで仲良く手をつないで楽しく渡れないです。ある船は座礁したり、ある船は行方不明になったり、そしてある船は沈没したりします。だから学校という港の中にいる間、大海原を渡るために、はさみで紙を切る練習ではなくはさみで立派な船を作る練習と、はさみ以外のこともたくさん練習してください」と言いました

 

鮭の遡上を見ているとそれを思い出す。そして写真のことも。高校から大学にかけて周りにたくさん写真家志望の友人、知り合いがいた。旅先にもいた。そして社会に出多くの写真家希望の人、現役の写真家も知った。写真を始めて40年近く、社会に出て33年。プロ写真家という目的地をめざし大船団を組んで、まさに鮭の遡上のようにスタートした。バブル崩壊、マルチメディアの時代、ネットへの移行、デジタルカメラ時代、リーマンショック。たくさんの暗礁や底なし沼があった。いまも僕は運がよく、たぶん少し臆病だったからかもしれないが、運よくいまだに航海し続けている。だが船団を見渡すと多くの船が沈没、座集、行方不明、燃料切れで、あるいは海賊の餌食で消えて行っている。そして艦隊を見守ってくれている護衛艦や直掩戦闘機もだいぶ少なくなってきた。写真の世界は厳しい、いつどこに船ごと飲み込む大渦や一撃で撃沈する核機雷みたいのがあるかわからない。大自然を撮りながらいつも思う。大変だけど今日も頑張ろうと。先日、センター試験に向かう学生さんたちを見ながらついつい鮭の遡上と自分のことを思い出してしまった。明日は何があるかわからない、だけど毎日一生懸命生きることを思ってください。ながながとすいません。ぼくはずっと航海できるように、少し臆病だけど頑張ります

極意本はAMAZONでも好評販売中  








新刊本 誰も伝えなかったランドスケープ・フォトの極意



好評発売中 写真集 しずくの国Spirit of Nippon 






ニコンの匠の結晶 Nikon Df








ニコン ニッコールレンズ80周年&800万本キャンペーン 相原正明と行く世界遺産白川郷撮影ツアーはこちらです





Xフォトグラファーズのサイトが更新されました。こちらもご覧ください

Masaaki Aihara Offical HP New!!! HPが新しくなりました




富士フイルムさんのX シリーズフェイスブックで和の写心 (毎週水曜日更新)を連載中。「イイネ」押してくださいね


応援クリックお願いいたします!


by masabike | 2014-01-23 19:29 | | Comments(8)
Commented by ariari at 2014-01-24 01:08 x
ありがとうございます。
相原さんの優しさと厳しさ、学ばせていただきます。
Commented by pretty-bacchus at 2014-01-24 02:56
すさまじい写真のあとの素晴らしい<命>の文面に感動して、真夜中に読み返しています。
益々のご活躍をお祈りいたします。
Commented by masabike at 2014-01-24 08:57
ariariさんへ
お恥ずかしい限りです
Commented by masabike at 2014-01-24 08:58
pretty-bacchusさんへ
一層精進いたします
Commented by トバリ at 2014-01-24 10:35 x
「少し臆病」、ずーっと航海するにはとても重要なことだと思います。
僕も臆病です。
Commented by tomato3125 at 2014-01-24 20:57
masabikeさんこんばんは。
自然のなかにいると、つらいことがある時も
癒される、と思っていました。
それは、今も、思います。
でもmasabikeさんの文章を読んで思うのは、
単に「美しさ」に癒されていたのではなく、
そういった厳しさをも含めた「壮大さ」が、
小さな自分をつつんで
何かを語りかけてくれていたからなのかなと思いました。
こころを打つ写真と文章でした。ありがとうございます。
Commented by masabike at 2014-01-25 11:58
トバリさんへ
少し臆病とても大事でrすね
Commented by masabike at 2014-01-25 11:59
tomatoさんへ
本当の自然の中ではいつも緊張しています
<< IOKU CHIEKO 写真展 命日 >>